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京創舎Blog

日記
2020年04月25日(土) #スタッフ日記  #川原日記  #書籍紹介 

テーマ読書会のススメ~春をテーマに~

こんにちは。

スタッフの川原です。

私は以前、地元・千葉のコワーキングスペースでテーマ読書会を友人と開催していました。

テーマ読書会とは、毎回違うテーマを設定し、テーマに沿って思い浮かぶ本を1冊、各自が持ち寄り、その本の紹介を通じてテーマについての考えや経験を一人5分程度でシェアするというもの。

同じテーマであっても、捉え方、経験は様々なので、その人の人となりや意外な思いなどを聞くことができてとても楽しかったです。

そんな話を、先日会員さんとしたので、京創舎でやるならば、季節や暮らしをテーマにできたら面白いかな?と思い、今回は、「春」というテーマでブログ記事を書いてみます。

私が春をテーマに選ぶのは、宋欣穎『いつもひとりだった、京都での日々』(早川書房,2019)というエッセイ。

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著書は、台湾の女性映画監督のソン・シンイン。

京都大学大学院で映画を学ぶために暮らした京都での1年を書いています。

エッセイは、桜の咲く季節に日本に到着した日から始まります。「いつもひとりだった」とタイトルに入っていますが、京都で出会った一風変わった大家さん、友人、お店のことなど、色んな人々の様子や交友関係を描写し、著者が、ひとりぼっちというわけではありません。

ただ、冒頭で、仲の良かった台湾の友人の自殺が語られ、思い出として描かれる京都の日々は、どこか寂しさが漂います。

どんなに仲が良くても、どんなに一時期友として触れ合っても、季節が移ろい、人は変化し、また一人になり別れて行く。

人と人の間で生じるあわい距離感、どこまでいっても人は一人、自分を生きて行くしかない、そんな思いが根底に見え隠れします。

だからこそ、出会った人とのエピソードは夜を灯す静かな光のように丁寧に照らされて、愛おしく感じます。

具体的に地名や店名も出てくるので、京都の街角の景色が思い浮かぶとより楽しめると思います。

私にとって、桜の季節というのは、新学期と重なり、学生の頃は、いつも心細かった思い出があります。春は新芽が眩しく、その輝きに追いつけないので、目をつぶって夏まで走り抜けたい、いつもそう思っていました。

私の京都での暮らしは始まったばかりですが、著書が描いたような、会いたくなる誰か、夜にホッと一息がつける安らげるお店、ひとりぼっちだけどひとりぼっちじゃない、そんな街角の景色に少しづつ出会って、自分の居場所になっていけたらいいなあと思っています。

ちなみに、この本は、2019年末に、著書の長編アニメーション作品『幸福路のチー』(台湾,2017)を出町桝形商店街にある出町座で鑑賞したときに買いました。

『幸福路のチー』は、著書が生まれ育った台湾の、社会背景と一人の女性の成長を重ね合わせた自伝的作品。

2020年のアカデミー賞、『パラサイト』で四部門受賞した韓国のポン・ジュノ監督が、その受賞スピーチで、憧れの監督・マーティンスコセッシの言葉「最も個人的なことは、最もクリエイティブなことだ」を引用していました。

『幸福路のチー』も、「最も個人的なことは、最もクリエイティブなことだ」といえる、私にとって深く心に響く作品でした。

エッセイと合わせて、映画も同時にお薦めします!

今回は「春」をテーマに、散ってしまう桜のように、寄る辺ない儚さや寂しさが通底している、そんなエッセイをご紹介しました。

あなたにとって「春」を思い起こす本はなんですか?

ぜひ教えてくださいね。

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